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東京工業大学大学院:2009年度講義のシラバスです   

昨年4月に異動した東工大社会理工学研究科社会工学専攻で、今年は通年の講義をやらせてもらえることになりました。
わたしは、2005年から大学教員の道に転身したわけだけど、通年の講義を担当するのは、実は今回が初めて。
これまでは、半期15コマ(90分間x15回)という講義ばっかりだったので、一年間を通じて、一つのテーマでシラバスを書いてみるといのは実は初体験。
しかも、今回は一般の大学院生を対象とした講義なので、社会人大学院生とは違った工夫が要るのではないかという気もする。
何はともあれ、今後、長い教員生活を送るわけなので、何事も早めに経験したほうが良いことは事実。

ということで、2009年度の講義、始めたいと思います。

【科目名】
社会工学特論

【講義計画】 (全28回)
前期は国際社会における伝統的なプレイヤーである政府(近代国民国家)、政府間機関(国連・世銀など)、後期は新たなプレイヤーであるNPO/NGO(社会起業家を含む)を基本的に取り上げます。
その際に、世銀とかアジア開発銀行という、一見遠い存在に見える組織も、実際に仕事をしている人たちの自分史を前面に出して解説していくと、意外に身近な組織に見えてくるということを踏まえて、それぞれの組織で働く人々に対するインタビュー映像を活用した講義を試みます。
さらに、それぞれのセクター、組織の特徴を歴史的(制度および理念の両面)に明らかにするようなリサーチ結果を加え、現代世界の制度的な多様性と同時に多元的価値、そして共通する価値観が明らかになるような講義を目指したいと思います。
<前期>「グローバルソサエティの誕生と発展」
第1回introduction
第2回 「近代」の多様性
第3回 近代人権理念の発展の歴史
第4回 ネイションステートの成立と国際機関の誕生
第5回 国際専門機関(国際連合児童基金と『国連子どもの権利条約』)
第6回 国連開発計画と『人間開発報告書』
第7回 国際人権と国際刑事裁判所、各人権委員会
第8回 GATT体制とWTO
第9回 WTOとFTA(日本の外国人受入政策との関係)
第10回 現代ヨーロッパ社会の形成とEC
第11回 EUの現状と課題(外国人労働者受入政策を例に取り上げる)
第12回 ブレトンウッズ体制の形成
第13回 国際的金融機関(世界銀行、アジア開発銀行)
第14回 G8、ダボス経済フォーラムと世界社会フォーラム
<後期>「グローバルソサエティーの新たな様相」
第15回 国連とNGOの協働(UNFCCCとNGO:コペンハーゲンCOP15に向けた取り組み)
第16回 国連とNGOの協働(子どもの兵士問題)
第17回 国連とNGOの協働(国連人権理事会とNGO)
第18回 人権委員会とNGOの協働(人身売買問題)
第19回 人権委員会とNGOの協働(国連子どもの権利委員会と日本)
第20回 企業とNGOの協働(子どもの性的搾取に対する取り組み:Code of Conduct)
第21回 企業とNGOの協働(環境問題)
第22回 政府とNGOの協働(子どもの権利:第二回子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議)
第23回 政府とNGOの協働(開発協力:セーブザチルドレン)
第24回 世界銀行、アジア開発銀行とNGOの協働
第25回 G8とNGOの協働(洞爺湖サミットと、その後)
第26回 地方自治体とNGOの協働(生物多様性条約COP10:名古屋)
第27回 地方自治体とNGOの協働(Child Friendly City Initiative)
第28回 まとめ

【成績評価】
小レポート30%(毎回の授業の最後にA4で1枚のレポートを書いてもらいます)
授業への参加度 40%
最終レポート  30%(3000字程度のレポートを書いてもらいます)

【テキストなど】
森田明彦『人権思想をひらく-チャールズ・テイラーとの対話』(藤原書店、2005年)
<参考文献>
E・H・カー『危機の20年:1919-1939年』岩波文庫(岩波書店、1996年)
ルドルフ・フォン・イェーリング『権利のための闘争』岩波文庫(岩波書店、1982年)
岡崎久彦『国家と情報―日本の外交戦略を求めて』(文藝春秋、1980年)
チャールズ・テイラー、田中智彦訳『<ほんもの>という倫理』(産業図書、2004年)
チャールズ・テイラー、佐々木毅他訳『マルチカルチュラリズム』(岩波書店、2002年)
マイケル・イグナティエフ、エイミー・ガットマン編、添谷育志・金田耕一訳『人権の政治学』(風行社、2006年)

【教員から一言】
外務省における私の大先輩で、日本における戦略論の草分け的存在である岡崎久彦さんは、今後10年間の世界の動きを予測するには、過去100年間の歴史を学ぶことが必要であると言われました。
今日の私達にとってもっとも重要なテーマの一つは、グローバリズムと呼ばれる現象がどのようにして生まれ、発展してきたのかを学び、どこへ向おうとしているのか、あるいは何処へ向うべきなのかを深く考えてみることだろうと思います。
この講義では、国際社会のプレイヤーである政府、政府間機関、NGO/NPOの具体的な事例に基づき、この課題を歴史的な視点から考える力を醸成することを目指したいと思います。

【教員プロフィール:森田明彦】
東北大学文学部(西洋史専攻)卒。博士(学術)。専門は社会思想、社会学。
外務省、国連開発計画、財団法人日本ユニセフ協会(広報室長)等を経て現職。
2001年12月に横浜で開催された第2回子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議子ども&若者プログラム責任者。洞爺湖サミットに向けて結成されたG8サミットNGOフォーラム環境ユニット・サブリーダー(2008年9月よりユニットリーダー)。
著書『人権をひらく―チャールズ・テイラーとの対話』(藤原書店、2005年4月)、『表現アートセラピーを応用したリサーチ手法の可能性―人身売買被害者の 「〈ほんもの〉の語り」』(財団法人アジア女性交流・研究フォーラム、2007年3月)。論文“Charles Taylor”、”Ubiquitous society and human rights”他多数。
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by fwge1820 | 2009-03-14 07:39 | 東京工業大学

東洋大学大学院:2009年度の講義のシラバスです   

今年も、まもなく東洋大学大学院での講義が始まります。
この講義も、2005年度に始めて、これで5年目。
受講者は児童福祉事務所職員やソーシャルワーカーとして働いている社会人大学院生の方が大半で、私自身にとってもたいへん勉強になっています。

今年は、昨年11月にブラジルのリオデジャネイロで開催された第3回子どもと青少年の性的搾取に反対する世界会議のお話しとか、日本における外国人労働者の子どもの人権のこととか、いろいろと新たな人権の課題に取り組んだので、そのあたりのことも受講生の皆さんとシェアしてみたいと思っている。
もちろん、2007年秋より取り組んでいるチャールズ・テイラー博士の『ある世俗の時代』に関連した、宗教と近代化、多文化主義の問題もお話しするつもりである。

ということで、2009年度東洋大学大学院の講義、まもなく始まります。

【科目名】
地域社会システム特論XI

【サブタイトル】
日本のわたし達にとっての国際人権

【講義の目的】
自分が行きたいところへ出掛け、自分がやりたいことを仕事にして、自分が好きになったひとと暮らす。ひとが自分らしい人生を生きるためには、さまざまな「人権」が保障されていなければなりません。
しかし、全ての人は尊厳と権利において平等であるという人権の思想が世界的に公式に認められたのは、わずか60年前のことに過ぎません。この講義では、国内外の様々な事例、そして参加者の日常的な経験に基づき、西欧社会で誕生した人権という社会規範の特徴と非西欧社会における適用可能性をその思想史的背景にまで遡って考えてみるという試みに挑戦します。
この講義を通じて、受講者の皆さんが人権という社会規範の歴史、特質を把握し、人権という考え方を日常生活に生かす考え方を育むことが出来るようになることを期待しています。

【講義スケジュール】
第1回 オリエンテーションと子どもの権利の世界を巡る動きの紹介

第2回 ニーズ言語と権利言語:マイケル・イグナティエフ『ニーズ・オブ・ストレンジャーズ』大江洋『関係的権利論』

第3回 イラク戦争と人権:拙論「マイケル・イグナティエフの人権論的転回?」

第4回 児童ポルノを中心とした子どもの商業的性的搾取問題について:拙論“Social Imaginaries of Ubiquitous Society and Human Rights”

第5回 人身売買問題:拙著『表現アートセラピーを応用したリサーチ手法の可能性―人身売買被害者の<ほんもの>の語り』

第6回 人身売買問題:拙著『人権をひらく』第8章他

第7回 子どもの権利主体性:拙論「チャールズ・テイラーの全体論的個人主義と人権主体論」『経済社会学会年報』第26号

第8回 人間中心主義と主体的権利論の歴史:チャールズ・テイラー『自己の諸源泉』

第9回 日本人にとっての人権:拙論「「自己」の身体―〈ほんもの〉の身体性」『社学研論集』第9号

第10回 多文化主義と人権<多民族国家日本への途>:拙論「マルチカルチュラリズムと現代日本―チャールズ・テイラーの『マルチカルチュラリズム』を中心に―」『社学研論集』第7号増補版

第11回 宗教と人権:拙論「西欧社会における「世俗化」への路―チャールズ・テイラー『ある世俗の時代』―」『社学研論集』第11号

第12回 日本人にとっての人権:2008年洞爺湖サミットを振り返って

第13回~第15回
参加者の発表に基づく討論

【テキスト】
森田明彦『人権をひらく―チャールズ・テイラーとの対話』(藤原書店、2005年)

【参考資料】
ルードルフ・フォン・イェーリンング『権利のための闘争』(岩波文庫)
マイケル・イグナティエフ『ニーズ・オブ・ストレンジャーズ』(風行社、1999年)
マイケル・イグナティエフ『人権の政治学』(風行社、2006年)
マイケル・イグナティエフ『ライツレボリューション』(風行社、2007年)
チャールズ・テイラー『マルチカルチュラリズム』(岩波書店、2002年)
チャールズ・テイラー『〈ほんもの〉という倫理』(産業図書、2004年)
森田ゆり『エンパワメントと人権』(解放出版社、2002年)
大久保真紀『プンとミーチャのものがたり―こどもの権利を買わないで』(自由国民社、2000年)
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by fwge1820 | 2009-03-14 07:16 | 東洋大学

カルデロン・ノリコさんはマニラ日本人学校へ通えるか?   

17日に両親とともにフィリピンに強制送還されるかも知れないカルデロン・ノリコさんに対して、両親が不法入国した以上、一度、母国に帰るのはやむを得ないという意見がありました。
ノリコさんが日本語で学び続けたいのなら、フィリピンの日本人学校に通えば良いのではないかという提案もありました。
そこで、マニラ日本人学校について調べてみました。

まず、入学資格。
1.マニラ日本人学校入学資格
本校は,当地に一時的に滞在する日本人子弟を対象に,日本と同等の教育を行う目的で設立され,マニラ日本人会により受益者負担で運営される比国政府より承認された在外教育施設である。
以上のような本校の性格に鑑み,以下を本校転入学の資格条件とする。
1.転入学を希望する児童生徒は,日本国籍を有していること。
2.転入学を希望する児童生徒は,日本語の読む・書く・聞く・話す等の年齢相応の能力を持っていると本校で認定され得ること。
3.転入学を希望する児童生徒は,近い将来日本に帰国し,日本の学校教育を受ける意思を持っていること。
4.転入学を希望する児童生徒は,原則として次の年齢とすること。小学校 6~12才 中学校 13~15才
5.転入学を希望する児童生徒の保護者は,原則として児童生徒と同居し,日本国籍を有すること。
6.転入学を希望する児童生徒の保護者は,本校設立の趣旨及び教育方針を理解し,本校の規則に定められた経費(寄付金,入学金,授業料等)を負担する資力があると本校で認定され得ること。
7.原則として,転入学を希望する児童生徒の保護者は,マニラ日本人会会員であること。
以上の条件を満たした上,学校長が実施する児童生徒及び保護者の面接並びに本校実施の児童生徒の筆記テストに合格すること。
なお,転入学に関するその他特別な事例については,学校運営理事会が転入学の可否を決定する。
 ※入学時(編入学時)には,国語と算数(数学)の簡単な筆記テストを行います。

ノリコさんもノリコさんの両親も日本国籍を持っていないわけですから、そもそも日本人学校には入学できないように思います。

次が入学金と学費。
寄付金 2000米ドル(20万円)
入学金 15000ペソ(3万円)
学費 月6500ペソ(1万3千円) 年間15万6千円
長期改修・修繕費 月400ペソ(800円) 年間9600円
施設費 月3200ペソ(6400円) 年間7万6800円
学童障害保健 年間300ペソ(600円)
教材費 年間3900~9480ペソ(7800円~1万8960円) 
合計は48万800円~49万1960円。

ちなみに、フィリピンの一人当たり国民総生産は2007年で1777米ドル(外務省HP)

結論的には、普通のフィリピン人家族が子どもをマニラ日本人学校に通わせることは無理だと思います。
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by fwge1820 | 2009-03-12 15:35 | 国際人権論

カルデロン・ノリコさんのケースに対する国連特別報告者の照会   

先月末より国連特別報告者がカルデロン・ノリコさんの件について、日本政府に行った照会の内容が判明したそうです。

 【ノリコ・カルデロンに関する照会
1 上記要約に主張されている事実は,正確か

2 カルデロン・ノリコ本人もしくは代理人から不服は申立てられたか?もしそうなら,本件に関して行われたと思われる何らかの調査,及び司法もしくはその他の審理の詳細を,そして可能であればその結果を教示されたい。もし審理が行われなかったならば,もしくは審理の結論が出ていないなら,その理由を説明されたい。

3 カルデロン・ノリコの教育の権利は貴政府によりどのように保障されているのか,情報を提供されたい。

4 (日本)政府は,子どもの最善の利益という法的原則の実施,ひいては少女カルデロン・ノリコが家族とともに過ごせ,学校に通い続け同世代の子ども達と社会的関係を発展させ,さらに彼女の両親の(入管法上の違法な)状態に基づいた差別から保護されるため,何らかの方策を講じたか。それらの方策の実施につき,詳細及び可能であればその結果を教示されたい。もし何の方策も採られていないなら,その理由を説明されたい。

5 日本で外国人の両親から生まれた子どもを保護するための法的枠組みにつき,情報を提供されたい。子どもの両親の入管法上の(違法な)状態を理由に適用可能な法律の違いが生じる場合は,その違いに言及されたい。】
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by fwge1820 | 2009-03-12 13:51 | 国際人権論

カルデロン家に対する特別在留許可は違法か?   

わたしに対して、10日、「偽造旅券で入国したカルデロン家の両親は、日本の法律を破ったのだから、処罰されても当然ではないか」という照会があった。

その後、気になったので、この件に関するブログ記事をいろいろと読んでみたら、この件に関する基本的な事実に対する誤解があることが分かった。

まず、カルデロン家に対して、特別在留許可を出すことは、超法規的措置ではない。
不法在留者(偽造旅券で日本に入国した人、あるいは合法的な短期滞在者と入国した後オーバーステイになってしまった人)に対する法務大臣による特別在留許可は、出入国管理および難民認定法(入管法)で定められた合法的措置である。

出入国管理および難民認定法第50条
法務大臣は、前条第三項の裁決に当たつて、異議の申出が理由がないと認める場合でも、当該容疑者が次の各号のいずれかに該当するときは、その者の在留を特別に許可することができる。
一 永住許可を受けているとき。
二 かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき。
三 人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるとき。
四 その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき。
2 前項の場合には、法務大臣は、法務省令で定めるところにより、在留期間その他必要と認める条件を附することができる。
3 第一項の許可は、前条第四項の適用については、異議の申出が理由がある旨の裁決とみなす。

つまり、不法在留が発覚し、退去強制処分が決まり、この処分に対する異議申し立てをした人で、その異議に正当な理由がないと却下された人でも、法務大臣が「特別に在留を許可すべき事情がある」と認めた場合には、在留特別許可を出すことが出来るのである。
カルデロン家の場合、不法在留が発覚し、退去強制処分が出た後、その処分撤回を求めて裁判を行い、最高裁によってその申し立てが却下されたので、法務大臣に特別在留許可を申請したのである。
つまり、これまで彼らのとった行動は合法なのである。
また、彼らは退去強制処分を申し渡された後、入管法第52条に基づいて、仮放免を申請して受理されており、したがって、現時点で彼らが日本に滞在していることも合法である。

入管法第52条第6項
入国者収容所長又は主任審査官は、前項の場合において、退去強制を受ける者を送還することができないことが明らかになつたときは、住居及び行動範囲の制限、呼出に対する出頭の義務その他必要と認める条件を附して、その者を放免することができる。

すると、次に、当然のこととして、入管法はなぜ法務大臣に対して、不法在留外国人に対して特別在留を許可する権限を与えているのだろうかという疑問が湧く。
そんな法律があるから、犯罪者が日本に居残ってしまうのだ、という疑問は誰でも持つだろう。

先日、わたしに連絡してきた方も同じような質問をされていた。
ここで考えなければならないのは、いかなる法律、制度にも不備があるということである。
もし、カルデロン家の両親が日本に入国して直ぐに偽造旅券であることが発覚し、帰国させられていれば、今回のようなケースが発生することはそもそも無かったのである。
あるいは、フィリピンを出国する段階で、偽造旅券では出国できない制度が確立されていれば、今回のようなケースは発生しなかったのだ。
しかし、1990年代初めの日本では、きちんとした外国人受入れ政策が確立しておらず、高度な技能を有する外国人のみを受け入れるという基本方針が堅持される一方で、3Kと呼ばれる単純労働をしてくれる労働者が国内で不足し、そのためにきちんとした制度を設けることなく、なし崩し的に外国人を受け入れてきたという現実がある。
この外国人受入れ政策が実態にそぐわないことは、井口泰関西学院大学教授、伊藤元重東大教授も指摘していて、わたしが参加した2007年春の経団連主催の国際シンポジウムでも、経済界のリーダーたちは単純労働も含む外国人受入れが必要であると明言していた。
こうした制度上、政策上の不備から、今回のカルデロン家のようなケースが生れたのである。
そういう意味では、カルデロン家は日本の政治的・行政的対応の遅れ、不備の犠牲者なのである。
そして、法務大臣による特別在留許可制度は、カルデロン家のような形式的には法律に違反しているが、「特別の事情」があると認められる人を救済する制度なのだ。

しかし、それでも、カルデロン家に特別在留を許可したら、似たようなケースにも許可をしなければならなくなり、日本には不法外国人が溢れてしまうのではないかという懸念を持つ人々はいるだろうと思う。

これまで、カルデロン家のようなケースで特別在留許可が認められている事例はいくつかあり、それらによると、両親、子どもとも不法在留となっていても、両親が10年以上犯罪歴無しに日本できちんと働いていて、子どもが中学生以上となっている場合には、特別在留許可が出ていることが多いようである。

したがって、今回のカルデロン家のケースにおける唯一のポイントは、カルデロン家の不法在留が発覚した時点、ノリコさんは11歳であったことにある。
その後、退去強制処分の撤回を求めて最高裁まで争い、最高裁で判決が確定した後、入管法に則り、特別在留許可の申請を行なっている間にノリコさんは13歳になった。
法務省は、もし、カルデロン家に対して特別在留許可を出した場合、類似の家族で裁判や特別在留許可申請手続きを取る間に子どもが中学生以上となってしまったケースにも特別在留許可を出さざるを得なくなるのではないかと懸念しているのである。

法的ないし制度的に見ると、カルデロン家のケースは、子どもが10歳以上である場合にも特別在留許可を認めるかどうかという事例であるということになる。
そして、この判断は法務大臣の裁量なので、法務大臣の判断に基づきカルデロン家に対して特別在留許可を出した場合、その行為は、日本国の法律上、完全に合法的な措置である。

したがって、最後の論点は、おそらく、カルデロン家に対して特別在留許可を認めた場合、同じような形で日本に滞在しようとする不法在留外国人が増えるのではないかという懸念である。
この点については、先ず、現在、日本にいる不法在留外国人(11万3072人)のうち、日本滞在が10年を超え、その子どもが小学校高学年に達している家族がどの程度いるのか、正確な数字を日本政府は出すべきではないか。
私の知り合いの弁護士は、カルデロン家のようなケースは全国で100件前後ではないかと話していた。
数百人の、勤勉で、真面目で、地域社会にも溶け込んだ外国人家族を退去強制処分にすることが、日本社会の治安を守る上で、どの程度有効なのか、私達は冷静に判断する必要があると思う。
また、政府は、そのような議論、判断を国民一人ひとりが出来るように、きちんとした情報を提供すべきなのではないか。

なお、カルデロン家の母親に犯罪歴があることが、今回、特別在留許可を出せない理由であると法務省は説明しているが、この犯罪歴とは、不法入国に対する処罰で2006年9月28日にさいたま地方裁判所で下された懲役2年6カ月、執行猶予4年の実刑判決を受けたことを指しているもので、その他の犯罪歴は全くない。
わたしに照会をしてきた方が言っていた「犯罪者は罰を受けるのが当然」という論理に基づけば、カルデロン家の母親はすでに処罰を受けているのである。
さらに、カルデロン家の母親は2003年、父親は2005年に在日フィリピン大使館から本人名義の旅券の交付を受けている。ノリコさんも2006年に本人名義の合法的な旅券を在日フィリピン大使館より交付されている。

昨今の不況で、感情的な外国人排斥の気運が日本社会にも見られるのだけど、日本人は本来、心の温かい、ホスピタリティに富んだ国民として世界に知られてきた。
この評判、信頼こそ、日本の財産である。

「君子は豹変する」という格言もある。
森法務大臣の勇断を期待したい。
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by fwge1820 | 2009-03-12 09:54 | 国際人権論

カルデロン・ノリコさん一家について   

昨日(9日)、東京入管に出掛けた。
カルデロン一家のご両親が出頭されるということで、この問題の支援者である私も同行したという次第。

私は今、東工大や東洋大学での教員としての仕事のかたわら、セーブザチルドレン・ジャパンのチャイルドライツセンター部長代行をパートタイムで務めている。

もともと、日本ユニセフ協会で子どもの権利に関するアドボカシー活動に携わっていたし、大学院での博士号申請論文のテーマも「現代多文化社会の下での人権の普遍性の様態」みたいなことだったので、外国籍の子どもの人権には以前からずっと関心があった。

先月、ジュネーブの国連人権高等弁務官事務所の知り合いから、カルデロンさん一家のことがBBCでニュースになっているので、情報を提供してもらいたいと頼まれ、この問題を担当されている渡邉章吾弁護士に連絡を取り、いただいた情報方を国連人権高等弁務官事務所に送ったのが、この問題に関わることになったきっかけ。

その後、国連人権高等弁務官事務所を通じて、2人の国連特別報告者が本件に関わることになり、現在、日本政府に対して情報提供を求めていると聞いている。

昨日、カルデロンさんのお父さんが収容され、お母さんだけが仮放免になり、学校を早退してきたノリコさんと東京地裁内にある司法記者クラブで渡邉章吾弁護士と3人で記者会見に臨んだ。
「家族3人で、日本で暮らし、勉強を続けたい」とノリコさんははっきりと発言していた。

「国連子どもの権利条約」は、子どもの最善の利益、非差別の原則、生存と発達の権利、そして意見表明権をその基本原則として掲げている。
これらの基本原則は、日本国憲法における基本的人権の尊重のようなもので、改正したり、留保したりしてはいけないものである。

日本政府は、しかし、両親ないし片方の親が強制退去処分になった場合、子どもの最善の利益は適用されないという解釈宣言を「国連子どもの権利条約」第9条1項について行なっていて、国連子どもの権利委員会から繰り返し、その撤回を勧告されている。

私の視点から見ると、これまでの法務省、そして最高裁の判決は、この解釈宣言を容認した、その範囲内での議論なので、そもそも、再考が必要なものである。
そして、その観点から、現在、国連特別報告者が介入しているのだと理解している。

確かに、外国人の入国ないし在留許可は各国政府の裁量事項であることは国際法の大原則である。
しかし、この原則を確認した最高裁のマクリーン判決は、今日のように多数の国際人権条約が成立する以前のものであって、その後の国際人権条約その他の制度の発展の結果、国家といえでも、これらの国際人権条約によって一定の制約を受けるという国際的な新たな動きを全く無視することは出来なくなっている。

今回の日本政府の決定は、このあたりに対する考慮が十分ではないのではないかと私は考えている。

日本は国連人権理事会の理事国でもある。
しかも、昨年のG8サミットではホスト国を務めた、世界のリーダー国の一つでもある。
そういう立場を踏まえて、カルデロン一家の問題にも対処してもらいたいと私は考えている。
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by fwge1820 | 2009-03-10 07:56 | 国際人権論