2007年度開講にあたって   

今年もいよいよ、東洋大学大学院社会学研究科&福祉社会デザイン研究科の講義が始まる。
今年の「国際社会福祉問題論」のサブタイトルは「体験から考える自分らしく生きる権利」。

【講義の目的、内容】
1945年以来、私たちは基本的人権の尊重、国民主権、そして平和主義を原則とする憲法の下で生きてきました。
けれども、個人の尊厳に基づく基本的人権の尊重という考え方は本当に私たちの生活世界の哲学として根付いたでしょうか?
「権利ばかり教えるから、自己主張の強い子どもに育つのだ」
こんな批判をどこかで聴いたことはありませんか?
この講義では、近代社会に生まれた「人権という思想」を、具体的な事例に基づき、根源的に考えるという試みに挑戦します。
わたしは、財団法人日本ユニセフ協会広報室長として、イラク、スーダン、東チモール、カンボジア、モルドバ等で起きている人権侵害の実情を見てきました。
自分が生き残るために人を殺したスーダンの元子どもの兵士。
生まれたばかりの赤ん坊の治療費のために上の娘を売ったカンボジアの母親。
戦争のために学校に行けなくなったイラクの子ども。
フィリピン人の元エンターテイナーと日本人の間に生まれた子ども。
一方、一見豊かに見える日本社会の中にも様々な問題があります。
子どもの頃に原爆で全ての家族を失った日本人の女性。
肉親から性的虐待を受けて子どもたち。
両親の争い、離婚によって深い心の傷を負った子どもたち。
このような問題に対して、「人権という思想」はどのような解決策を提示することが出来るのでしょうか?
この講義では、近現代人権の歴史的、思想的背景まで遡って、思想としての人権の可能性を考えていきたいと思います。

【講義スケジュール】
1回 子どもの権利を巡る世界的な流れについて講義します。
2回 わたしが2005年より取り組んできた研究調査プロジェクト「表現アートセラピーを応用したリサーチ手法―人身売買被害者の〈ほんもの〉の語り」に基づいて、フィリピン、カンボジアを中心とする人身売買の実状と世界の取組について講義します。
3回-8回
報告者を決めて 『人権をひらく―チャールズ・テイラーとの対話』(藤原書店、2005年)を読んでいきます。「人権」という考え方が近代西欧社会において如何に誕生したのか、そして、この考え方はどんな特徴を持っていて、現在、どのような問題に直面しているのか、を具体的事例に基づき考えていきます。
9回―15回
受講者の実体験を踏まえた報告と、参加者による討論、私の補足説明によって講義を進めたいと思います。

【参考資料】
ルードルフ・フォン・イェーリンング『権利のための闘争』(岩波文庫)
マイケル・イグナティエフ『人権の政治学』(風行社、2006年)
チャールズ・テイラー『ヘーゲルと近代社会』(岩波書店、2000年)
チャールズ・テイラー『マルチカルチュラリズム』(岩波書店、2002年)
チャールズ・テイラー『〈ほんもの〉という倫理』(産業図書、2004年)
森田ゆり『エンパワメントと人権』(解放出版社、2002年)
小熊英二『〈癒し〉のナショナリズム』((慶應義塾大学出版会、2004年)
大久保真紀『プンとミーチャのものがたり―こどもの権利を買わないで』(自由国民社、2000年)

【テキスト】
森田明彦『人権をひらく―チャールズ・テイラーとの対話』(藤原書店、2005年)
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by fwge1820 | 2007-04-02 21:05 | 東洋大学

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