カルデロン家に対する特別在留許可は違法か?   

わたしに対して、10日、「偽造旅券で入国したカルデロン家の両親は、日本の法律を破ったのだから、処罰されても当然ではないか」という照会があった。

その後、気になったので、この件に関するブログ記事をいろいろと読んでみたら、この件に関する基本的な事実に対する誤解があることが分かった。

まず、カルデロン家に対して、特別在留許可を出すことは、超法規的措置ではない。
不法在留者(偽造旅券で日本に入国した人、あるいは合法的な短期滞在者と入国した後オーバーステイになってしまった人)に対する法務大臣による特別在留許可は、出入国管理および難民認定法(入管法)で定められた合法的措置である。

出入国管理および難民認定法第50条
法務大臣は、前条第三項の裁決に当たつて、異議の申出が理由がないと認める場合でも、当該容疑者が次の各号のいずれかに該当するときは、その者の在留を特別に許可することができる。
一 永住許可を受けているとき。
二 かつて日本国民として本邦に本籍を有したことがあるとき。
三 人身取引等により他人の支配下に置かれて本邦に在留するものであるとき。
四 その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき。
2 前項の場合には、法務大臣は、法務省令で定めるところにより、在留期間その他必要と認める条件を附することができる。
3 第一項の許可は、前条第四項の適用については、異議の申出が理由がある旨の裁決とみなす。

つまり、不法在留が発覚し、退去強制処分が決まり、この処分に対する異議申し立てをした人で、その異議に正当な理由がないと却下された人でも、法務大臣が「特別に在留を許可すべき事情がある」と認めた場合には、在留特別許可を出すことが出来るのである。
カルデロン家の場合、不法在留が発覚し、退去強制処分が出た後、その処分撤回を求めて裁判を行い、最高裁によってその申し立てが却下されたので、法務大臣に特別在留許可を申請したのである。
つまり、これまで彼らのとった行動は合法なのである。
また、彼らは退去強制処分を申し渡された後、入管法第52条に基づいて、仮放免を申請して受理されており、したがって、現時点で彼らが日本に滞在していることも合法である。

入管法第52条第6項
入国者収容所長又は主任審査官は、前項の場合において、退去強制を受ける者を送還することができないことが明らかになつたときは、住居及び行動範囲の制限、呼出に対する出頭の義務その他必要と認める条件を附して、その者を放免することができる。

すると、次に、当然のこととして、入管法はなぜ法務大臣に対して、不法在留外国人に対して特別在留を許可する権限を与えているのだろうかという疑問が湧く。
そんな法律があるから、犯罪者が日本に居残ってしまうのだ、という疑問は誰でも持つだろう。

先日、わたしに連絡してきた方も同じような質問をされていた。
ここで考えなければならないのは、いかなる法律、制度にも不備があるということである。
もし、カルデロン家の両親が日本に入国して直ぐに偽造旅券であることが発覚し、帰国させられていれば、今回のようなケースが発生することはそもそも無かったのである。
あるいは、フィリピンを出国する段階で、偽造旅券では出国できない制度が確立されていれば、今回のようなケースは発生しなかったのだ。
しかし、1990年代初めの日本では、きちんとした外国人受入れ政策が確立しておらず、高度な技能を有する外国人のみを受け入れるという基本方針が堅持される一方で、3Kと呼ばれる単純労働をしてくれる労働者が国内で不足し、そのためにきちんとした制度を設けることなく、なし崩し的に外国人を受け入れてきたという現実がある。
この外国人受入れ政策が実態にそぐわないことは、井口泰関西学院大学教授、伊藤元重東大教授も指摘していて、わたしが参加した2007年春の経団連主催の国際シンポジウムでも、経済界のリーダーたちは単純労働も含む外国人受入れが必要であると明言していた。
こうした制度上、政策上の不備から、今回のカルデロン家のようなケースが生れたのである。
そういう意味では、カルデロン家は日本の政治的・行政的対応の遅れ、不備の犠牲者なのである。
そして、法務大臣による特別在留許可制度は、カルデロン家のような形式的には法律に違反しているが、「特別の事情」があると認められる人を救済する制度なのだ。

しかし、それでも、カルデロン家に特別在留を許可したら、似たようなケースにも許可をしなければならなくなり、日本には不法外国人が溢れてしまうのではないかという懸念を持つ人々はいるだろうと思う。

これまで、カルデロン家のようなケースで特別在留許可が認められている事例はいくつかあり、それらによると、両親、子どもとも不法在留となっていても、両親が10年以上犯罪歴無しに日本できちんと働いていて、子どもが中学生以上となっている場合には、特別在留許可が出ていることが多いようである。

したがって、今回のカルデロン家のケースにおける唯一のポイントは、カルデロン家の不法在留が発覚した時点、ノリコさんは11歳であったことにある。
その後、退去強制処分の撤回を求めて最高裁まで争い、最高裁で判決が確定した後、入管法に則り、特別在留許可の申請を行なっている間にノリコさんは13歳になった。
法務省は、もし、カルデロン家に対して特別在留許可を出した場合、類似の家族で裁判や特別在留許可申請手続きを取る間に子どもが中学生以上となってしまったケースにも特別在留許可を出さざるを得なくなるのではないかと懸念しているのである。

法的ないし制度的に見ると、カルデロン家のケースは、子どもが10歳以上である場合にも特別在留許可を認めるかどうかという事例であるということになる。
そして、この判断は法務大臣の裁量なので、法務大臣の判断に基づきカルデロン家に対して特別在留許可を出した場合、その行為は、日本国の法律上、完全に合法的な措置である。

したがって、最後の論点は、おそらく、カルデロン家に対して特別在留許可を認めた場合、同じような形で日本に滞在しようとする不法在留外国人が増えるのではないかという懸念である。
この点については、先ず、現在、日本にいる不法在留外国人(11万3072人)のうち、日本滞在が10年を超え、その子どもが小学校高学年に達している家族がどの程度いるのか、正確な数字を日本政府は出すべきではないか。
私の知り合いの弁護士は、カルデロン家のようなケースは全国で100件前後ではないかと話していた。
数百人の、勤勉で、真面目で、地域社会にも溶け込んだ外国人家族を退去強制処分にすることが、日本社会の治安を守る上で、どの程度有効なのか、私達は冷静に判断する必要があると思う。
また、政府は、そのような議論、判断を国民一人ひとりが出来るように、きちんとした情報を提供すべきなのではないか。

なお、カルデロン家の母親に犯罪歴があることが、今回、特別在留許可を出せない理由であると法務省は説明しているが、この犯罪歴とは、不法入国に対する処罰で2006年9月28日にさいたま地方裁判所で下された懲役2年6カ月、執行猶予4年の実刑判決を受けたことを指しているもので、その他の犯罪歴は全くない。
わたしに照会をしてきた方が言っていた「犯罪者は罰を受けるのが当然」という論理に基づけば、カルデロン家の母親はすでに処罰を受けているのである。
さらに、カルデロン家の母親は2003年、父親は2005年に在日フィリピン大使館から本人名義の旅券の交付を受けている。ノリコさんも2006年に本人名義の合法的な旅券を在日フィリピン大使館より交付されている。

昨今の不況で、感情的な外国人排斥の気運が日本社会にも見られるのだけど、日本人は本来、心の温かい、ホスピタリティに富んだ国民として世界に知られてきた。
この評判、信頼こそ、日本の財産である。

「君子は豹変する」という格言もある。
森法務大臣の勇断を期待したい。
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by fwge1820 | 2009-03-12 09:54 | 国際人権論

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